王桐傑

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王桐傑(日本語読み:おう どうけつ、1920年頃? - 没年不詳)は、スマトラ在住の華人で、1945年頃、茨木機関に協力し、黒十字会を創設したとされる人物。もともと、メダンの同盟社(同盟通信?)に勤務しており、抗日秘密組織・蘇島華僑抗敵協会(華抗)のメンバーだったが、1943年9月頃、日本の憲兵隊に逮捕され、特務機関の脅迫・利益誘導によって組織やメンバーについて自白した。これが九・二〇事件の一斉検挙の契機になったとみられている。

経歴[編集]

九・二〇事件[編集]

1943年頃、王は抗日秘密組織・蘇島華僑抗敵協会(華抗)のメンバーで、スマトラ島メダンにあった日本の通信社・同盟社(同盟通信?)に勤務していた[1]

王は武装暴動を起こすと周囲に公言していて、実際にその動きを見せたため、日本の特務機関に監視されるようになった。華抗の指導者が王にメダンを離れて潜伏するよう伝えたが、王は同盟を辞職した後、憲兵隊に逮捕された。[1]

王の逮捕は、1943年9月の九・二〇事件の直前の出来事だったという[2]。王は、日本の特務機関に脅迫・利益誘導されて、抗日組織の存在や指導者・メンバーを自白し、これが九・二〇事件の一斉検挙の契機になったとみられている[3]

茨木機関[編集]

1945年6月頃、王は、シンガポールリバー・バレーEnglish版に本部を置いていた日本の特務機関茨木機関の一員として認知されており、他の機関員から「トンキャ」と呼ばれていた[4]

元機関員の手記(本田 1988 41)では、前歴は元中華民国の軍人・工作員で、「残置諜者」(日本軍占領地に残されたスパイ)をしていたところを一味6人とともに第25軍の憲兵隊に捕まり、死刑になるところを近藤次男大尉により助命されて機関に協力、近藤とともに主にスマトラで活動していた、と紹介されている。時々シンガポールにも顔を見せていた、という[5]

王は、日本軍に協力する華僑やユーラシアンを集めて、慈善団体・黒十字会を創設した、とされている[6]

終戦後[編集]

1945年8月15日の終戦直後に茨木機関の機関員らがシンガポールからスマトラ島に集団で逃亡した際に、王は岸山勇次とともに、機関がパカンバルBahasa Indonesia版の某中国人の家に預けていた金塊、海峡ドル阿片などの物資を預かり、それを「シャンタルBahasa Indonesia版から相当離れた田舎の中国人の家」の「裏手の森の中」に埋めた。そこは「普通の農家」で、王の姉の家だったという。[7]

王は、茨城機関の機関長・石島少佐や岸山とよく行動をともにしていたが、岸山と王は、インドネシアでは大したことはできないから、早く中国へ帰りたい、物資はその資金にするのだ、と話しており、早く石島少佐と別れたがっているように感じられ、自分たちの分の物資を確保して隠匿していたようだった、という[8]

人物[編集]

  • 本田 (1988 41)によると、王は、(1945年当時)25,6歳、赤ら顔のちょっとした男前で、小太りのいい体格をしていた。中国の大人ともいうべき悠々たるところがあり、マレー語を話したほか、日本語も片言ながら話せた。また気さくな男だったという。[9]
「トンキャは、おっとりした感じで、篠塚を『トアン』と呼び、時々、片言の日本語を使った。2人とも女好きで、夜になると『プルンパン・チャリ』(女を探す)といって出かけ、中国人の女を連れてきては一緒に寝ていた。」[8]

付録[編集]

関連文献[編集]

  • 伍ほか (1993) 伍英光ほか編『難忘的「九・二〇」』中國華僑出版社[10]
  • 王 (1984) 王任叔(巴人)「従棉蘭到蒂加篤羅」『印尼散記』湖南人民出版社[11]

脚注[編集]

  1. 1.0 1.1 鈴木 1996 164 - 伍ほか (1993 )などによる。
  2. 鈴木 1996 164-165 - 王 (1984 )による。
  3. 鈴木 1996 164-165 - 伍ほか (1993 )および王 (1984 )による。
  4. 本田 1988 120
  5. 中西 1994 139
  6. 本田 1988 42
  7. 本田 1988 120-122
  8. 8.0 8.1 本田 1988 121
  9. 本田 1988 46
  10. 鈴木 1996 160,182
  11. 鈴木 1996 164-165

参考文献[編集]

  • 鈴木 (1996) 鈴木正夫「『スマトラ工作』と『九・二〇』事件」『横浜市立大学論叢 人文科学系列』v.47 n.3、pp.149-183、1996年3月、NAID 40003713757
  • 中西 (1994) 中西淳『諜報部員脱出せよ - 実りなき青春の彷徨い』浪速社、ISBN 4888541523
  • 本田 (1988) 本田忠尚『茨木機関潜行記』図書出版社、JPNO 88020883